アタシ




「あの…猿野…。」

武軍装線との試合後の凪と猿野…そして乱入した俺達との祝賀会の後。

今回の祝賀会をツブした直接の原因である沢松を(おそらく)仕置きに行った猿野は、
行った時のまま不機嫌な顔で戻ってきた。


無理もないだろう。
本当なら大好きな…凪と二人だけで、めちゃくちゃな遊園地だったとはいえ楽しくやるはずだったんだから。

それを邪魔したのは虎鉄センパイと兎丸と…ひのきと、俺だ。
だって凪と二人なんて、凪が危ないじゃないか。

凪が…危ない、から…。


そう思っていても。
今目の前に戻ってきた猿野の不機嫌な顔を見ると、心が折れそうになる。


だって、俺は…。



「何。」

いつもと違う少し低い声。


「あ、あの沢松の奴…どうしたんだ?」

無理に笑って明るく言おうとした。


けど。

「アンタには関係ない。」


猿野は、本気で怒っていた。


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「はあ…。」

それから数日。
猿野はマネージャーの手伝いに来る事もなく。
あの怒りは持続しているように見えた。

凪も、しばらくのあいだは怒っていたようで、俺とひのきの二人に口を利くこともなくて。
流石に俺たちは反省していた。

考えていなかったことに気づいたから。

あの祝賀会は、凪が精一杯の勇気を持ってあいつを誘ったものだったから。

それのに、俺達は。
バカな理由をつけて…それを邪魔しちまった。

それに気づいて、俺達は凪に謝罪した。
凪はそれをゆっくりと許してくれたけど。

まだあいつには何も言えていない。

だから俺は今日こそ、と決心を固めていた。


謝るんだ、あいつに。



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練習の後。
俺は、猿野を呼び出すことに成功した。


「…何、話って。」

相変わらず、猿野の視線は冷たい。
あの日の前まで、そんな目で見られたことなんてなかったのに。


「あ…あのっ…前の祝賀会の…ことだけど…。」

「……。」


俺は、勇気を振り絞って言った。


「ごめん…!!」


深くふかく頭を下げて、俺は謝罪の言葉を叫ぶ。



「……。」

猿野は、何も言わない。
俺も恐くて頭を上げられなくて。
沈黙の時が続いた。




「……。」
「……。」



「いーよ、もう。
 …アンタが凪さんを大事にしてるからそうなっただけだし。
 こっちこそあからさまに態度変えて悪かったよ。」

少し柔らかくなった声が、響く。
俺はゆっくりと顔を上げた。

そこに、初めて見る表情の猿野がいた。
優しく苦笑した顔。


その時、俺はもう一つ気づいた。



「ま、でもオレにも腹立てる資格はあるわけだしな。
 謝ったって事は、それも認めてるんだろ?」

猿野は俺の顔を覗き込んで笑う。

意外と思えるほどの整った顔立ちで。
笑顔には温かさが溢れていて。
親近感を感じさせる。


そんな猿野に、俺は少し見とれてしまっていた。


「ん?どした、ぼーっとして。」

はっと気づくと、さっきよりずっと至近距離で猿野の顔があった。


「わ、わーーーーっ!!」

俺は、物凄く恥ずかしくなって。
ほどんど反射的に、漢蹴りをくりだしていた。


しまった、と思ったときにはもう止められなくて。


けど。


猿野は、それをなんなく受け止めた。


「おい…謝る相手に蹴りたぁ…ひどくねえか?」
猿野は先程と変わらず苦笑した。

「ご、ごめん!!つい…っ!!
 でも、お前があんまり近づくから…!!」
ああ、俺はやっぱり可愛くない。
無意識のうちにこいつまで攻める言葉を口にする。

今のは俺が全面的に悪かったというのに…。



「はいはい、女性に不用意に近づいたオレが悪うございました。」
猿野は、気にもしないといった風に踵を返した。



「あ…。」

俺は、蹴りへの謝罪がちゃんとできなかったから、もう一度猿野を呼び止めようとした。

だけど、猿野はこう言った。



「わざとじゃないのは分かってっから、気にすんなよ。
 清熊。」




「…!」



清熊、と呼ばれたのは初めてで。
それこそ普通の男子みたいに。
今まで見たいに「もみじお姉さま」とかじゃなくて。

ちゃんと名前を呼ばれたことに。


俺は胸の高鳴りを感じた。






########


ホントは、凪を護るためだけじゃなくて。


あいつに会いたくて、凪と二人にするのが嫌で、邪魔をした。


俺は。アタシは。


あいつがすきになっていたんだ。





                              end



ありがちな話に収まりました・・・。
飛影さま、多大に遅くなりまして本当に申し訳ありませんでした!
どうやら私はもみじちゃん片想いが大好きなようです。
それで今回もなつかしネタになりつつある凪猿デートを使用させていただきました。
天国に対するもみじちゃんの切なくて素直になれない気持ちが一番妄想しやすいんですよね…。
凪ちゃん視点としては単発小説に「ふきげん」がありますね。
これと対ってわけじゃありませんが、時間進行は同じです。
これのあとに以前リクエストいただいた「イタイトコロ」が入ってくると思います。
猿熊ってあんまり両想いは思いつかないですね…。

では、いつもながら駄文ですが今日はこの辺で。
飛影さま、素敵リクエストほんとうにありがとうございました!



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